裏腹王子は目覚めのキスを



「で、実際、どうなの? 姉ちゃんたち」
 
走り出した車の後部座席で窓の外を眺めていたら、バックミラー越しに弟と目が合った。
 
うちに二台あるうちの一台、ブルーのワンボックスカーを運転するのは桜太だ。そのとなりに、シートベルトを締めたみのりちゃんが座っている。

「へ? なにが?」
 
不意をつかれて戸惑うわたしに、桜太は「だからぁ」と続ける。

「トーゴ兄ちゃんと、なんもないわけ?」

「な……なんもって、何があるっていうの?」
 
後ろから運転席を叩くと、桜太はハンドルを操作しながら平然と言った。

「だって、あのトーゴ兄ちゃんと一緒に住んでるんでしょ? 何もないわけないじゃんか」
 
率直な物言いに思わず苦笑してしまう。
 
桜太はトーゴくんの女遊びの激しさを知っている。知っている上で、男として憧れているらしい。
 
弟自身はそんなふうにできるだけの器量も度胸もないと自覚しているけれど、だからこそ、自分の好きなように生きているトーゴくんは、男の目から見ても『かっこいい』のだという。

「そんなこと言ったって、実際、何もないし……」
 
わたしの言葉に桜太はハンドルを切りながらうなった。

「……それって、逆にすごくない?」
 
あのトーゴ兄ちゃんが同じ屋根の下にいる女に手を出さないなんて……とぶつぶつ呟いている桜太の横で、事情を知らないはずのみのりちゃんがぽつりと言う。

「さっきの……トーゴさん。羽華子さんのこと、好きっぽかったですね」
 
その瞬間、車内が静まった。

< 153 / 286 >

この作品をシェア

pagetop