裏腹王子は目覚めのキスを
 
紫煙を立ちのぼらせる煙草と、それを持つ長い指。
 
彼の誕生日を祝った日に、わたしの髪に触れた、あの感触。
 
きゅっと胸が締まる。
 
……思い出しちゃったじゃない。
 

ロウソクに照らされたテーブルの上。あのとき触れたトーゴくんの指先は、すごく優しかった。
 
突然だったからすごく驚いたし、普段されたことのない仕草だったからか、くすぐったいような甘い感情さえ込み上げた。
 
だけど同時に、わたしは想像してしまった。
 
長くてきれいなあの指で、トーゴくんはこれまで何人もの女の人に触れてきた。
わたしに触れたみたいに優しく、もろいガラス細工を触るような手つきで、女性を虜にしてきたのだ。
 
今だって、そういう関係の女の人がいるのかもしれない。
彼が地元から都内へ戻るのを心待ちにしている女性がいるのかもしれない。
 
そう思ったとたん、胸の高鳴りは痛みへと変換される。
 
息ができないほど苦しくなるから、トーゴくんの女性関係は普段から考えないことにしているのに……。
 
わたしは分かりすぎるほど分かってる。
 
王子様の指が求めるのは、わたしじゃない。
 
彼が望む刹那的な欲求と、わたしが望む永続的な幸福とは、決して交わらない。
 
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