裏腹王子は目覚めのキスを
わたしが浮気性な男性を好まないことは、トーゴくんだってわかっているはずだ。
だから、万が一わたしを求めるようなことがあれば、それはつまり、トーゴくんがわたしという存在を彼の人生の中から切ったことを意味する。
幼なじみとしてのつながりも全部捨てて、もう二度とわたしとは関わらないと覚悟を決めたうえで、わたしを求めるはずだ。
関係を持った女の人とは、きれいさっぱり別れるのがトーゴくんの流儀だから。
「トーゴ兄ちゃん、姉ちゃんのこと大事にしてんだよ、きっと」
弟の明るい声に、わたしはぼんやりと車内へ視線を戻した。
トーゴくんがわたしに手を出さない理由を勘違いしている弟に、冷静な指摘を入れる。
「ちがうよ」
王子様は確かに、わたしに優しくしてくれる。
口では辛辣なことを言っても、態度は甘いし、それなりに大事にしてくれているのだと思う。
でもそれは、わたしに限ったことじゃない。
相手が桜太でも、甥っ子たちでも、トーゴくんは同じように優しい。
『幼なじみ』や『家族』。
そういった恋愛の対象にはならない範囲に、わたしは置かれている。
「トーゴくんはね、昔から近しい関係の女の子には絶対に手を出さないの。あとで面倒になるからって」
「ええ? そうなの?」
疑わしそうな声を上げる弟に、わたしは家族にも秘めていた最大の説得材料を開封する。
「うん。それにわたし、彼氏いるし」
言った瞬間、車体がガクンと揺れた。