裏腹王子は目覚めのキスを

「お、桜太っ、あぶな」
 
赤信号待ちとはいえ、いきなりブレーキを踏み込み過ぎだ。
運転席のシートに手をかけながら注意をすると、弟は振り返った。

「なにそれ!? 彼氏いんのにトーゴ兄ちゃんの家に居候してんの?」
 
車内いっぱいに響き渡る声に、わたしは前に乗り出していた身体を縮めた。

眉間に皺を刻んだ桜太の目が、鋭く突き刺さる。

「う、うん……。やっぱりトーゴくんに悪いよね。だからわたしも早く仕事を決めたいんだけど、なかなか」

「いや、ていうか普通に考えたら、彼氏の家にいるべきでしょ」

「うん……でもお母さんに話したら反対されそうだし、まだ一人暮らしはできないし、それに彼自身がトーゴくんの家に世話になってなよって」

「はあ? なんだそれ」
 
いつかのトーゴくんと同じ反応をされて、わたしはすごすごと後部座席に沈んだ。
車内の空気が重い。
 
みのりちゃんは前を向いたまま黙って話を聞いているけれど、やっぱりおかしいと思っているかもしれない。
 
妙な罪悪感が湧いて、わたしは肩をすぼめた。

「健太郎くん……その彼氏ね、少し変わってて。自分の領域を冒されることをひどく嫌うから……」

「冒すって……彼女じゃん」

「うん、まあ、そうなんだけど……」
 
< 157 / 286 >

この作品をシェア

pagetop