裏腹王子は目覚めのキスを

わたしがまだ元気に働いていた頃、彼の1LDKのマンションに何度か行ったことがある。
 
ベッドとテレビとソファでいっぱいになってしまう部屋は広くはないけれどきちんと片付けられていて、ごく普通の男性の一人暮らしといった感じだった。

そこでは映画のDVDを観るだけで、泊まったことは一度もない。
健太郎くんはひとりじゃないと眠れない質らしく、ワンルームに別の人間がいると落ち着かないのだという。

「えーなんかそれ、変……。姉ちゃん大丈夫かよ。またおかしな男に引っかかってるんじゃないの? びっくりするくらい男見る目ないもんなぁ……」

「け、健太郎くんは優しいよ。絶対暴力振るわないし、わたしのことちゃんと考えてくれてるし」

「暴力って……当たり前じゃんそんなの。てゆーか、ゆくゆくはその彼氏との結婚を考えてるってこと?」

「え……」
 
桜太に指摘されて、はっとした。
 
トーゴくんは結婚しないのかな、なんて幼なじみのことばかり考えていたけれど、そもそもわたしはどうなんだろう。
 
お盆休みに旅行に行けないことを告げたときの、健太郎くんの声が思い出された。


電話の向こうの彼は、いつもと変わらない冷静さを保ったまま、無感情に「ああそう」とだけ答えたのだ。
 
いつでも感情をあらわにするということがなく、何を考えているのかわかりづらい健太郎くん。

嫌なことは嫌、嬉しくても照れが勝ってわざと悪態をつく、なんていう分かりやすいトーゴくんと違って、健太郎くんは気持ちが表面に出ない分、接していてときどき不安になる。

< 158 / 286 >

この作品をシェア

pagetop