裏腹王子は目覚めのキスを
「統吾。あんたまだ煙草吸ってるの? そろそろやめたほうがいいんじゃないの?」
「お、ババロアじゃん」
おばさんの声に振り返ったトーゴくんはまるで見当違いな返事をした。
そんな彼に、今度はおばさんがヒートアップする。
「まったく人の話聞いてる? 煙草の害って子どもに遺伝するらしいじゃない。あんたももう三十なんだから、そろそろ真面目に人生考えないと困るでしょ。わかってるの?」
「はいはい」と聞き流すようにトーゴくんが答えるものだから、おばさんはますます小言を並べていく。
わたしは洗った食器を片付けながら、親子のやりとりをハラハラしつつ見守った。
三十路を迎えた息子に早く所帯を持ってもらいたい、というおばさんの気持ちも分かるけれど、トーゴくん自身は結婚をする気がないのだ。
平行線をたどるふたりの主張は、どうやったら決着がつくだろう、なんて考えていると、トーゴくんが取り分けてあったババロアの小皿をひとつ手にとった。
「わかってるって。煙草はやめるから。結婚したら、な」
思わず顔を上げた。
トーゴくんはキッチンカウンターの前でババロアを一口食べると、皿を持ったままくだを巻いているおじさんたちが待つテーブルへと戻っていく。
「あ、もう自分の分だけ持ってって! どうせならお父さんの分も持って行ってくれたらいいのに。まったく気がきかないんだから」
ぶつぶつとつぶやいているおばさんの声が、となりに立っているのにやけに遠い。
両手に持った布巾と陶器の皿を、わけもなく見つめてしまった。