裏腹王子は目覚めのキスを
ババロアを切り分けながらおばさんが苦々しく言って、わたしはあわてて首を振った。
「わたしのほうこそお世話になってますから」
「ね、統吾に手出されたりしてない?」
さらりと言われた言葉に、わたしは目を瞠った。
おばさんは申し訳なさそうというよりは、いたずらっ子のように含み笑いをしながらわたしを窺っている。
「いえいえいえ、ないです、ないです!」
全力で否定するように両手を振ると、
「え、なに、何の話!?」
いい年をして恋愛話が大好きな母親が、子犬のようにとことこと走り寄ってきた。
「羽華子、やっぱりトーゴくんと何かあるの?」
芸能人の噂話に飛びつく主婦そのものの母親に、わたしはため息をこぼす。
「いや、ないから……」
「でもうちとしては、羽華ちゃんが統吾のお嫁さんになってくれたら、最高なんだけどなぁ」
おばさんが鼻歌を口ずさむように言って、わたしはぽかんとした。
「私も、それ賛成だわ! ねえ羽華子、トーゴくんにもらってもらいなさいよ! そうすればあんたも片付く上にトーゴくんがわたしの息子に……。一石二鳥だわ!」
「お母さん、落ち着いて」
いったい何が一石二鳥なのか、と考えながら、ヒートアップしかけている母をなだめていると、煙草を吸い終えた噂の張本人がリビングに姿を現した。
台所を通りかかったときに一瞬煙草の匂いがして、おばさんが目を尖らす。