裏腹王子は目覚めのキスを
 
目を向けると、トーゴくんがデザート皿にスプーンを置いて麦茶を飲み干す。 

「へ……?」
 
きょとんとしている一同を横目に見て、彼は立ち上がる。

「飛行機。乗り遅れるだろ」

「え、でもまだ時間……」
 
ふわりと風をはらむレースのカーテンの向こうは、まだ明るい。
窓から入り込む緩やかな風を感じながら壁の時計に目をやると、夕方の六時前だ。飛行機の時間までまだ三時間もある。

「盆休みなんだから、空港混むだろ。早めに行っておかねーと」

「あ……そっか」
 
安易に納得してしまうわたしの隣で、おばさんが顔をしかめた。

「なによ統吾、偉そうに。帰りたいならひとりで帰りなさい。羽華ちゃんはあんたの所有物じゃないのよ」
 
おばさんの言葉に、トーゴくんは頬をひくつかせた。

「こいつは向こうで仕事決まりそうなんだよ。ほら、羽華さっさとしろ」

「は、はい」
 
不機嫌そうな声に、わたしは急いで立ち上がった。

「すみません、おばさん。後片付け途中で」と謝りながら、食べ終えたババロアのお皿を台所に運ぶ。

「えーまだゆっくりしていけばいいのにぃ」と身体をくねらせるおばさんに呼応して酔ったおじさんが「そうだぞぉ」と声を上げる。
 
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