裏腹王子は目覚めのキスを
「こうも決まらないっていうのは、結構レアなケースだよ」
静かに言われて、肺が重くなった。
こんなに決まらないスタッフじゃ、仕事を紹介する派遣会社側も手を焼いているかもしれない。
「健太郎くんにも迷惑かけてるよね……ごめんね」
「うん。それでさ、ずっと考えてたんだけど」
彼は相変わらず淡々としている。あまりにも普段通りだから、そのあとに放たれた言葉の意味を、すぐには理解できなかった。
「羽華子さ、僕と結婚しなよ」
「…………へ?」
半分以上が埋まっている客席の真ん中で、健太郎くんは抑揚のないまま言う。
「外で働くより、羽華子は家の中にいたほうがいいと思うんだ」
わたしは動けなかった。
威勢のいい店員の掛け声や右隣の彼女たちの愚痴が、意味のないノイズとなって耳に入る。
――僕と結婚しなよ。
健太郎くんの言葉が頭の中で繰り返されて、わたしは急激に彼の言っている意味を理解した。
途切れていた回線がつながったみたいに、身体中を血がめぐって、脳が急速回転をはじめる。
わたしは思わず姿勢を正した。
「健太郎くん、それって……」
プロポーズ?
固まったまま、正面でまったく表情を変えない健太郎くんを凝視していると、
「羽華子にとって、それが一番いいと思って」
彼は静かにアイスコーヒーを口にする。