裏腹王子は目覚めのキスを
砂糖もミルクも混ぜない濃い色の液体が、ストローにぐんぐん吸い上げられていく。
「結婚……」
口に出した瞬間、心臓が大きく跳ねた。
大きな飴玉でも飲み込んだみたいに、喉の奥が圧迫される。
「ほ……本気なの?」
全然予想していなかったからか、それともあまりにも普段と変わらないシチュエーションだからか、まったくもって現実感がなかった。
上司の愚痴を言っていたふたり組が、ふいに手を叩いて笑い出し、わたしはびくりと肩を揺らした。
「冗談で言うわけないじゃないか。あ、先に言っておくけど、結婚指輪はなくてもいいよね? 僕、指輪って嫌いだから、どうせならお揃いで、時計とか別の物を買えばいいと思うんだ。だから婚約指輪だけ、今度買いに行こう」
「え……う、うん」
思わずうなずいてしまってから、あわてて手を振った。
「ま、待って待って。結婚て、そんないきなり言われても」
「何か問題ある? 結婚すれば、羽華子も無理に仕事探さなくて済むだろ」
「でも、わたし」
「別に今すぐ籍を入れるって話じゃないんだから。まずはお互いの両親に挨拶して、それから式場を探して」
健太郎くんはわたしがプロポーズを承諾したという体でどんどん話を進めていく。
わたしは焦った。
何か問題ある? と訊かれると、答えられるような問題はないのかもしれない。
それでも、何故か気持ちがついていかない。
「あの、わたし……」
うまく言葉にできないまま健太郎くんを見つめると、彼はわたしを見下ろして、ふうと肩の力を抜いた。