裏腹王子は目覚めのキスを


雲ひとつない朝、リビングの大きな窓から春の淡い光が注いでも、部屋の中が汚いと気持ちは沈んでいくらしい。

「なに拗ねてんだよ。どうせ男の裸なんか見慣れてんだろ?」
 
電気ポットに水を注ぎながらだるそうに言われ、わたしは持っていた泡だらけのマグカップを取り落した。シンクに並んだ洗浄待ちの陶器がこすれ合って嫌な音を立てる。

「わ、わたし、遊び人に見えるの?」
 
ショックを受けていると、トーゴくんはわたしを横目で見てコキリと首を鳴らした。

「……いや、遊んでるようには見えねえけど」
 
耳の後ろを掻きながら冷蔵庫から清涼飲料水を取り出して、ペットボトルのまま口をつける。
 
王子様は今、長袖のTシャツにスウェットというゆるい格好で、頭のてっぺんにはぴょこりと寝癖を立てていた。見た目に気を遣って外ではきちんとした格好をするくせに、人目のない場所ではとことん気を抜く。

そんなところも昔のままで、懐かしい彼の癖や行動を見つけるたびに、わたしの胸はむずむずと疼いた。まるで花を咲かせる小さな蕾が、ゆっくりと膨らんでいくみたいに。

「お前、ガキの頃と比べるとだいぶイメージ変わってるし、それなりに男と付き合ってきてんじゃねえの」
 
わたしは食器棚のガラスに映る自分の姿を確認した。

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