裏腹王子は目覚めのキスを
「ビンタン島ってどこ……?」
『インドネシアです』
ふいに優しい声が聞こえた。
桜太がみのりちゃんに電話を変わったらしく、『お久しぶりです羽華子さん』という彼女の声がふわりと耳元をくすぐる。
『バリ島みたいに寺院や遺跡はないですけど、その分観光客も少なくて、のんびりできますよ。エステとかマングローブツアーもありますし』
「え、そうなんだ。でもインドネシアって、言葉は何語になるの……?」
『インドネシア語が公用語になってますけど、空港とかホテルとかは英語が通じますよ。ツアーで行くんですか?』
「え、ううん。彼が手配してくれるらしくて、たぶん、個人旅行なんじゃないかな」
健太郎くんは一見おとなしいタイプに見えるし輪を乱すこともないけれど、本当は集団行動が大の苦手だ。
究極のマイペースで度胸もあるから、おそらくツアーではなく個人で手配をするつもりだろうとわたしは考えていた。
みのりちゃんはさすが旅行代理店に就職が決まっているだけあって、わたしのちいさな疑問にすべて丁寧に答えてくれた。
『つか姉ちゃんパスポート持ってんの?』
電話口の声が低いものに戻る。桜太の言葉に、わたしはソファから跳ね起きた。
「持ってない!」
『あれって結構申請に時間かかるんじゃなかったっけ。戸籍謄本とか住民票も必要なんじゃないの』
「うわ、そうなの?」
パスポートなんて全然頭になかった。旅行慣れしていないことがこんなところでアダになるなんて。
わたしは頭を抱えた。