裏腹王子は目覚めのキスを

「空港からフェリーターミナルまでタクシーですぐみたいだし、大丈夫だよ」
 
こういう、何事にも動じないところがすごく頼もしい。
 

わたしはパスポートに目を落とした。
 
生年月日の欄には、“17 OCT”と印字されている。10月17日。わたしの誕生日だ。

「あと二週間ちょっとだね」
 
健太郎くんの言葉に、「うん」とつぶやく。
 
わたしの誕生日に合わせて立てられた旅行の日程は、16日の金曜の夜に出国して19日の月曜日に帰国する二泊四日。
月曜日は健太郎くんが有休を取ってくれた。
 

はじめての海外。

はじめてのリゾート。
 
本当なら、もっと胸が沸き立っても良さそうなのに、喉の奥に些細な気がかりが引っかかっている。

旅行は心から楽しみにしているのに、拭いても拭いてもぬぐい去れない不安が、胸の片隅を巣食っている。
 
青空にぽっかりと黒い雲が浮かんでるみたいに、ちぐはぐで、不自然な気持ち。
 

あの日以来、わたしの心はずっとすっきりしない。


「今回の旅行でゆっくりしたら、あとは忙しくなるよ」

「え……?」

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