裏腹王子は目覚めのキスを
血管の中を赤い血に混じって泥水が流れているみたいな、身体が内側から腐敗していくような感覚がよみがえる。
この一年間でずいぶん回復したと思ったのに、仕事のことを考えるとまるで条件反射のように身体が重くなる。
「おい、どうした?」
はっと我に返ると、不思議そうにわたしを見ている大きな目と視線がぶつかった。わたしは慌てて頬を引き上げる。
「な、なんでもない。わたしのことはそのうち話すから。今はトーゴくんの部屋をどうにかしないと」
「……ふうん?」
王子様は一瞬だけ腑に落ちないような顔をして、「しょうがねえな」とため息をこぼした。
「じゃあとりあえず、今日はあっちの部屋だけでもどうにかするか」
「あっちのって、段ボールが詰まれてる部屋? どうして?」
使っていない部屋よりもリビングを先にきれいにしたほうがいいんじゃないかと思っていると、彼は思いがけないことを言った。
「お前の寝る場所確保しないと」
「えっ?」
驚いているわたしに追い討ちをかけるように、彼は形のいい唇を引き延ばして薄く笑う。
「それとも、俺と一緒に寝るか?」