裏腹王子は目覚めのキスを
「……どうかした?」
手元を覗きこんでくる彼に、わたしは手を振って答える。
「ううん、弟が、無事に着いたかって連絡してきたから」
浮かべた笑みが引きつっていないことを祈りながら健太郎くんを見上げると、彼は「ふうん」とつまらなさそうに席に着いた。
「もう準備できてるみたいだから、着替えに行こう」
「え……」
「挙式は浜辺でするから。牧師とカメラマンがついてくれるって」
わたしが何も言えないでいるあいだに、健太郎くんはウェイターを呼んで会計のサインをしてしまう。
彼が立ち上がったあとも、しばらくぼうっと座っていたら、
「ほら、行くよ」
強引に引っ張られ、わたしは席を立った。
「け……健太郎くん」
「誕生日おめでとう、羽華子」
通路を歩きながら振り返りざまに言って、健太郎くんは薄く笑う。
めったに見られないその微笑みがわたしには笑っているようには見えなくて、氷に触れられているみたいに、掴まれた腕から少しずつ身体が麻痺していくような気がした。