裏腹王子は目覚めのキスを




浜辺に観光客の姿はなかった。

リゾート開発はまだまだこれからで、施設はそこまで充実していないけれど、白い砂浜と青く澄んだ海ははっとするほど美しい。
朝は淀んでいた空にも、いつの間にか太陽の姿があった。
 
ドレスのすそを引きずりながら、砂浜の上を波打ち際へと進んでいく。
 
先頭を歩くのはカメラマン兼コーディネーターの男性で、その後に白いシャツと黒いスラックスというビーチ仕様の出で立ちをした牧師の男性が続く。

ふたりとも現地の人らしい浅黒い肌に、健康そうな体つきをしていた。
 
健太郎くんとわたしだけの式だから、バージンロードもなければ新婦引き渡しの儀式もなく、もちろん讃美歌斉唱もない。

歩きづらい砂の上を、みんなで足を取られながら歩く光景は、なんだかシュールだった。
目の前で起こっていることなのに、どこまでも他人事に思える。
 
しばらく歩くと、波打ち際から数メートルの場所に、白いカーテンと真っ赤な花で飾られたアーチが設置されていた。
 
青い海と白い砂浜を背景に立つウェディングアーチは、夢の世界の建物みたいに可憐だ。
 
通常の心理状態だったら絶対にはしゃいでいた景色なのに、心が痺れてしまったわたしの口からは、感嘆の吐息さえ出てこない。

実際、嬉しいのか悲しいのかも、わからなかった。
 
胸の中は、自分に対しての負の感情でいっぱいになっている。
 
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