裏腹王子は目覚めのキスを
何をしているんだろう、わたしは。
自分ひとりじゃ逃げ出すこともできないなんて、どこまでも救いようがない。
白いドレスを着ているのに、心の内側が真っ黒にくすんでいく気がする。
「いよいよだね」
健太郎くんのささやき声に顔を上げた。
アーチの下で、海を背にした牧師が、手にしていた聖書もどきの冊子を開く。
ふと、この式の最中に結婚証明書にサインをすることになっていることを思い出した。
法的な効力はなくても、それは、健太郎くんと夫婦になることを誓った証には違いなくて……。
身体が、こわばる。
「Kentaro(ケンタロ)」
ふたりの前に立った牧師が、きれいな英語で健太郎くんを呼んだ。
「Do you take this woman Wakako to be your lawfully wedded wife? Do you promise――」
病めるときも、健やかなるときも――、そういった意味合いの英単語が耳をすり抜けていき、言葉の奔流の前に、わたしはなすすべもなく立ち尽くす。
「――so long as you both shall live?」
言葉が途切れて、牧師の男性が健太郎くんをちらりと見る。
すると健太郎くんは心得たように答えた。