裏腹王子は目覚めのキスを


頭に焼き付けられる。
 
形のいい唇と、見るものすべてを虜にする澄んだ瞳。
その芯のある声に名前を呼ばれただけで、胸の奥はジンとしびれる。

「俺はもう、女はお前だけでいい。この先、死ぬまでずっと」
 
喉の奥が締まって、息ができなかった。
 
心臓が脈打つたびに、胸に杭を打ち込まれているみたい。

切れ切れに息を吐きながら、正面に立つ彼を見つめる。
 

顔のきれいな男の人は、苦手だ。
 
すれ違う女性が振り返るような美形の男性は、ほぼ例外なく学生の頃からモテていて、特定の女の子と付き合わずに軽薄な態度を取っている人が多いから。
 
トーゴくんのことがずっと好きだったのに、その浮ついた態度に幻滅して、わたしは苦手意識を持つようになった。

トーゴくん自身を『苦手な対象』として、カテゴライズした。そうやって、わたしは逃げたのだ。

自分の気持ちが砕けてしまうのが怖くて、想いを告げることもせずに封じ込めて、トーゴくんを見ないように線を引いた。
消えない想いを胸の奥にしまって、無理やり眠りにつかせた。


――お前が心の底で想ってんのは、俺だろ?

「トーゴくん……」
 
どうして彼には、分かってしまったんだろう。
 
十数年間、わたし自身さえも、目を逸らし続けてきた感情に。


 
手を差し伸べる王子様に向かって一歩、足を踏み出したとき、

「羽華子」
 
後ろから肩をつかまれた。


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