裏腹王子は目覚めのキスを
骨まで軋むような強い力に、ぞっとする。
「自分が何をしようとしてるか、分かってる?」
振り向いたとたん、心臓を鷲掴みにされたみたいに動けなくなった。
健太郎くんの空っぽの目に、冷えた怒りがみなぎっている。
見るものすべてを凍りつかせてしまう冷たい視線が、わたしを貫く。
「羽華子のために用意したのに、全部を台無しにする気? まさかそんな非人道的なこと、するわけないよね?」
「わ……わたし……」
「羽華子のせいで式がめちゃくちゃになるんだよ? 僕が受ける精神的苦痛は計り知れない。そうなったら、責任取れる?」
立ちすくんでいると、傍らから「ははっ」と低い笑い声が響いた。
わたしと健太郎くんの視線を受けて、トーゴくんが「おっと失礼」と含み笑いをする。
王子様の表情に、健太郎くんはめずらしく声を苛つかせた。
「……なんですか?」
「いや……すげー言い分だな、と思って」
そう言うと、トーゴくんはウェディングアーチを見上げ、ぽかんと立っているカメラマンと牧師を見やった。
「羽華子のため、ねぇ……。夢見がちを絵に描いたようなコイツが、招待客のいねえこの式を望んでたようには思えないけど」
独り言のようにつぶやいたあと、彼は健太郎くんに目を据えた。
「羽華子のために。羽華子のせいで。そういう言葉でこいつを縛り付けるのは、どうかと思いますよ? ま、こいつもMっ気強いから、いじめたくなる気持ちはわからなくもないけど」
わたしを一瞥して、王子様は言う。