裏腹王子は目覚めのキスを
 
毎朝コーヒーだけなんて、王子様の食生活はどうなっているんだろう。
 
キッチンに戻り、勝手に使っていいと言われている冷蔵庫を開けてみる。そこには食べ物はおろか飲み物すらまともに入っていなかった。

シンクはあまり使用していないらしく、生ゴミは一切溜まっていない。使っている食器もコップ類だけのようだ。

「自炊しないのかな」
 
部屋の中を見渡す限り、お弁当やお惣菜を買ってきて食べるということもなさそうだった。散らかってはいるものの、食品が入っていたような空き容器は見当たらないし、放置したお弁当箱が放つ腐敗臭もしない。
 
ということは、ぜんぶ外食?

「栄養バランスとか考えてるのかな……」
 

考えながらバルコニーに出て、穏やかな春の日差しが降り注ぐ陽だまりに洗濯物を干した。
 
男性ものの下着も靴下もインナーも実家で見慣れているはずなのに、トーゴくんの物だと意識するとどうしても直視できない。わたしは目を逸らしながら手早くハンガーに吊るしていった。
 
幸いにも今日は風がない。十四階ともなると強風に吹き飛ばされるんじゃないかと心配だったけれど、干した洗濯物は重力に従うまま床に向かって垂直に垂れ下がっている。
 

というか、トーゴくんはわたしに勝手に動き回られて嫌じゃないのかな。
 
洗濯かごが空になってからふと思った。
 
いくら幼なじみと言ったって十二年も会っていなかった相手に、下着とか見られて嫌じゃないの……? 

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