裏腹王子は目覚めのキスを
 
わたしだったら絶対に見られたくないな、と思いながら部屋に戻る。

散らかり放題な室内だって、自分の母親ならいざ知らず、ただの幼なじみに過ぎないわたしが見てまずいものとか、置いてないのだろうか。

「桜太なんか、お母さんですら無断で部屋に入るのは嫌がるのに」
 
転がっていた手のひらサイズの置物を何気なく拾い上げる。
木彫りの象にはどこか海外のお土産品なのか、エキゾチックな模様が彫り込まれていた。

あるいは彼女とでかけた海外旅行の思い出の品とか……?
 

昔と変わっていなければ、トーゴくんはあまりオープンな性格ではないはずだ。
 
初対面の相手と気さくに話しているように見えても、笑顔の裏では冷えた目で相手を冷静に観察している。彼女になった人にすら、本当の自分をなかなか見せない。

その代わり、家族とか親友とか、一度気を許した相手にはとことん素性を明かしてしまう。
 
王子様の微笑みの裏にある、計算高い黒い微笑。
その黒を突き破ってさらに奥にまで踏み込んではじめて、トーゴくんの本当の表情に辿りつくことができるのだ。
 

大事にされているようには見えない木彫りの象を手のなかで転がしていたら、ケータイの着信音が鳴った。

ポケットから取り出し、耳に当てる。


「はい」

『あ、羽華ちゃん?』
 
すこし低めの、伸びやかな女の人の声。
トーゴくんの母親だった。

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