裏腹王子は目覚めのキスを
「お、おま……バカ子か!?」
「……羽華子(わかこ)です」
完璧に作りこんだ品のある王子の表情から、気さくな素の笑みがのぞいて、ほんの少し胸が苦しくなる。
トーゴくん、変わってない。
年を重ねた分だけ顔つきに精悍さが増しているけれど、意志の強そうな目鼻立ちも、わたし以外の女の子に対して見境なく見せる王子様の微笑も、昔のままだ。
「うっわ、なっつかしー! お前、何年ぶりだよ」
「トーゴくんが大学のときに上京して以来だから……十二年」
「十二年! 一瞬わかんなかったのも当然だな。はは、見れば見るほどバカ子だ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でまわされて、わたしは「羽華子だってば」と反論する。このやりとりもお決まりのパターンだった。
物心ついたときから、トーゴくんの手のひらはわたしの頭を掻きまわしてきた。
わたしが嫌がることを平気で口にして、きちんと結ったわたしの髪をめちゃくちゃに乱して、それでいて、とびきりの笑顔を見せる。