裏腹王子は目覚めのキスを


「で、なに、どうしたんだよ急に」
 

嬉しそうに笑いながらも、彼の目線は抜かりなくわたしの荷物に注がれる。


「……家出でもしてきたのか?」
 

そう思われても仕方がないような、二、三日分の旅行荷物を収納できる小型のキャリーバッグを脇に置いて、わたしは静かに首を振った。
 

うん。

こんなことだろうと、ちょっとは予想していた。


「おばさんから……何も聞いてない?」
 

トーゴくんの住所や連絡先、このマンションの地図やオートロックの解除方法まで詳細に書き込まれたメモを見せると、王子様――もとい、桐谷統吾、二十九歳――は、はじめて眉間に皺を刻んだ。







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