裏腹王子は目覚めのキスを
「ええ。女性もばりばり働いてましたし、男性ならなおさら三十歳じゃまだ結婚の意識って低いかも」
『そういうもんなのかしらぁ』
ため息交じりに相槌を打っていたおばさんが、急に早口になった。
『あ、そろそろ病院に行かなくちゃ。それじゃ悪いけど、羽華ちゃん頼んだわね』
「あ、はい」
通話を切ってから、ふうと吐息がこぼれた。
うちの母親もそうだけど、おばさん――つまりトーゴくんの母親――も、地元を離れたことがない。
トーゴくんのお兄さんである圭吾くんが自宅の近くに住んでいるから、余計に兄弟で比べてしまうのかもしれなかった。今のトーゴくんの年のときには、圭吾くんは結婚していてすでに子供が二人いた。
都内では三十歳独身の男性なんてざらにいる。その感覚が、おばさんにはあまりぴんとこないのかもしれない。
だいたい、あのトーゴくんが今の時期に結婚を考えているとは思えなかった。
彼はひとりの女性に縛られることを何よりも嫌うのだ。
結婚なんて人生の墓場、とか思ってそう……。
墓場どころか自分は今ごみ溜めの中に暮らしてるっていうのに。
室内を見回して、わたしは気合いを入れた。
「よし、やるぞ」
ゴミ袋を用意して、明らかなゴミと、そうでないものと、判断不能なものに分類していく。
「要るものと要らないもののチェック、してもらわなきゃ」
埋もれていたリビングのフローリングがどうにか見えるくらいまで片付けると、空腹を感じた。時計を見ると午後の一時を過ぎている。
わたしは休憩がてら、近所のスーパーに向かうことにした。