裏腹王子は目覚めのキスを

「テレビ、つけてもいいよね……?」
 
誰にともなく確認し、わたしは片付けたローテーブルに親子丼を運び、ごみごみしたソファの一角に腰を下ろした。

「いただきます」
 
ごはんを口に運びながら、人の家で何やってるんだろう、とふと我に返る。
 
目もくらむばかりの王子様が住む、目も当てられないようなゴミ王国の真ん中で、ひとり親子丼を頬張っている。

「でも、腹が減っては戦はできぬ、だし」 
 
気を取り直し、スプーンでとろとろの卵が絡んだごはんを掬い上げた。食べながら何気なくテレビのチャンネルを回していると、見覚えのある映像が目に留まる。

「あ、懐かしい」
 
それはずいぶん昔にやったドラマの再放送だった。当時人気絶頂にあった俳優とその共演女優がドラマ放送後に電撃結婚をして話題になったのだ。

「あ、この場面、好きだったなぁ」
 
高校時代からの腐れ縁だったふたりが、すれ違いを繰り返して最終的には結ばれるといった、ありふれた内容だったけれど、中学生で思春期ど真ん中だったわたしにとっては憧れの世界だった。 

画面の中ではウェディングドレスに身を包んだヒロインが教会で神父を前に誓いを立てようとしている。

先の展開はわかっているはずなのに、卵と鶏肉とごはんを絶妙な配分でスプーンにのせたままフリーズするくらい、わたしはドラマの世界に入り込んでしまった。
 
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