裏腹王子は目覚めのキスを
新郎と新婦が誓いのキスを交わそうとした瞬間、教会内は突然、静まり返る。
入り口のドアを乱暴に開いたのは、銀色のタキシードをまとった彼だった。
ヒロインとケンカを繰り返して意地を張ってばかりだったヒーローが、最後の最後に彼女をさらう場面。
新婦が信じられないというように目を見張る。
真紅のバージンロードを突っ切ったヒーローがヒロインの腕を取って、そのまま教会から連れ出す。
「ああ、素敵……」
わたしはクライマックスのこのシーンが昔から大好きだった。
結婚式で奪い去られる花嫁なんて、羨ましいにもほどがある。
「いいなあ、こういうの」
真っ白のウェディングドレス姿で走りながら、幸せそうに笑みをこぼす女優をうっとりと眺めているときだった。
「こんなの実際にやらかしたら、あとで地獄だな」
背後から響いた声に飛び上りそうになった。
振り向くとリビングのドアに王子様がもたれかかっている。
「この花嫁、何百万って慰謝料請求されるぞ。出席した友達とか会社の人間はいい迷惑だろうし、下手したら信用なくす」
「び、びっくりしたぁ。トーゴくん、どうしたの? 仕事もう終わり?」
左手で胸を押さえて鼓動を鎮めているわたしに、彼はしれっと言う。