裏腹王子は目覚めのキスを

「いや、商談で近くまで来たからちょっと寄ってみただけ」
 
朝と同じスーツ姿の彼はブリーフケースを脇に置いて、「お、なんかちょっと片付いてんじゃん」ときょろきょろしながら歩いてくる。

「あれ、昼飯? 何食ってんの」
 
見下ろされて、わたしはスプーンを持ちあげたまま固まった。

悪戯が見つかったみたいに、妙に後ろめたい。

人の家(しかも相手はよりによって王子様だ)で、軽食どころかがっつりと丼ものを作って食べているなんて、女として微妙だろうか。

「き……キッチン、勝手に借りました」
 
うつむきがちに言った瞬間、

「なんか、美味そうだな」
 
思いがけない言葉に、わたしは顔を上げた。

「あ、トーゴくんも食べる? すぐ作れるから――」

「いやいい、もう行くし。それ一口だけもらう」

「え」
 
傍らにしゃがみこんだ彼が、スプーンを握ったわたしの手をつかむ。そのまま、ちょうど一口分盛られていたスプーンを、口に運んでいく。
 
触れた手の感触と、吐息のかかりそうな距離に、身体が硬直した。

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