裏腹王子は目覚めのキスを
「お、うまい」
固まっているわたしの目の前で、トーゴくんは子どものように驚きの表情を見せる。
「意外だなーお前、料理できんだ」
彼の言葉が耳に入らないくらい、鼓動がうるさかった。
本当に、やだ。
相手の女の子がどう思うかなんて考えもしないで、トーゴくんはこういう振る舞いを簡単にやってのける。
いや、もしかすると、分かっていてやっているのかもしれない。
女の子を落とすために、誰彼かまわず、無意識の癖になってしまうくらい――
「じゃ、俺戻るわ」
凍りついていた身体が瞬時に溶けた。
「え、もう?」
「様子見に来ただけだし。特に困ったこともないだろ?」
「あ、待って、トーゴくんお夕飯は? 作っておこうか?」
玄関に向かおうとする背中を呼び止めると、彼が振り向く。
端整な顔は小さく、細身のスーツがよく似合っていて、わたしは何故かテレビドラマのヒーローを思い出してどきっとした。
「何時に帰れるかわかんねえし、いつも家じゃ食わねえから」
「え……」
「俺のことは気にしなくていい。じゃあな」
そっけなく言うと、王子様は腕時計に目を落とし、急いだ様子で玄関を出ていった。