裏腹王子は目覚めのキスを


  
よく『仕事が忙しい』というフレーズを耳にするけれど、仕事の忙しさというのは何を基準に考えるのだろう。
 
定時で帰れれば忙しくないのか、残業を毎日三時間した場合はどうなのか、なんていろいろと思い浮かべてみたけれど、トーゴくんの言う『忙しさ』はわたしの想像と比べるまでもなく本物だった。
 

結局その日、彼が帰宅したのは日付が変わる直前だった。
 
疲れた顔で帰ってきたと思ったら、すぐにシャワーを浴び、一息つく間もなくダイニングテーブルにノートパソコンを広げて仕事の続きにとりかかる。
 

まだ月曜日で、一週間が始まったばかりなのに、くっきりとした二重の目には疲れの色がにじんでいるし、顔色もよくない。

「あの……トーゴくん、何か食べる? 簡単なものでよければ作ろうか?」
 
おそるおそる声をかけると、パジャマ代わりのTシャツを着た彼が、目を上げた。

「いや、いい。こんな時間に食ったら太る」

「……でも」
 
忙しそうにキーを打ってる姿を見ていると、夕食を摂る暇もなかったのではないかと心配になる。

もともと細身の彼だけど、年齢を考えればもう少し肉が付いていてもおかしくない。アスリートみたいに運動をしているわけでもないのに、トーゴくんは恐ろしく体脂肪が低そうだ。

「俺のことはいいから、先に寝な」

「……うん」
 
わたしがうろちょろしてたらきっと仕事の邪魔になる。

「おやすみなさい」
 
控え目に言って、わたしはリビングを後にした。

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