裏腹王子は目覚めのキスを


 
「とりあえず上がれよ」と通されたリビングで、わたしは立ち尽くした。
 
立ち尽くすよりほかなかった。
 

床には口を開けていない缶コーヒーや栄養ドリンク、空っぽのペットボトルが散乱していて、ローテーブルには使いかけのマグカップがいくつも並んでいるし、その半径一メートル以内には何故かティッシュの箱が三つも転がっている。

本や雑誌、脱ぎ散らかした衣類でフローリングは一切見えない状態で、部屋のあちこちに中身をのぞかせた段ボールがいくつも放置されていた。
 

足の踏み場もないとはこのことだ。物であふれかえったリビングで、黒いソファだけが救命胴衣でもつけていたかのように、かろうじて首を出している。

「はあ? なんで先に言わないんだよ」
 
となりの部屋から聞こえてくる声に耳を傾けながら、わたしは脱力した。リビングを囲うように張り巡らされた大きなガラス窓の向こうに、都会のビル群が淡い光をいくつも瞬かせている。


贅沢なマンションだな、と思った。

部屋の中はひどい有様でそれほど広くもないけれど、きれいに片づけたらテレビドラマで見るようなセレブなヒーローが寛ぐ、お洒落な空間に変わるに違いない。

トーゴくんと見ず知らずの女性が窓辺に寄り添い、ワイングラスなんかを掲げちゃっているシーンを想像して、喉の奥がにがくなった。

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