裏腹王子は目覚めのキスを
おそらく、トーゴくんの中で食事という行為は優先順位が低い。
朝がコーヒーだけというのは、きっと朝食を食べる分の時間で別の作業をしたいからだ。
時間を気にかけている彼に「食べる?」とただ尋ねたところで条件反射のように「いらない」と答えてしまうのだろうけど、あらかじめ用意をして、出来たての美味しそうな食事を見せれば、もしかすると気が変わるかもしれない。
そう考えて実行した作戦は、見事に成功した。
鍋からご飯をよそい、お味噌汁のお椀とともにトーゴくんの前に持っていく。ほかほかと白い湯気が立ちのぼる茶碗を見下ろして、彼は不思議そうに首を傾げた。
「うち、炊飯器ないのに、米炊けるんだ……?」
「お鍋があれば炊けるよ」
彼はお箸も持たずにぼうっと朝食を見下ろしている。くっきり二重の目はしっかり開いているけれど、もしかすると、まだ寝ぼけているのだろうか。
「食べないの?」
「……いや」
間に合わせの割り箸を持ち「いただきます」と手を合わせる。
その礼儀正しい仕草が意外で、わたしは正面の席に座ったまましばらくトーゴくんを見つめてしまった。
Tシャツにスウェットという姿で、髪の毛はあらぬ方向に跳ねている。
隙だらけの王子様はお味噌汁を一口すすると、身体に染みこませるみたいに目を閉じてゆっくりと息を吐きだした。