裏腹王子は目覚めのキスを

「一人暮らし始めてから自分んちでこういう朝メシ食うの、はじめてかも」

「え……」

「味噌汁の作り方とか、上京するときは一通り母親に教え込まれたけど、いざとなると作るの面倒で外食ばっかだったし」

「作れないってわけじゃないんだ……?」

「たりめーだろ」
 
トーゴくんは器用だ。何事もそつなくこなしてしまう彼なら、料理だって簡単に覚えてしまうに違いない。
 
だし巻き卵を口に運んで、噛みしめるように「うめえ」とつぶやく。
気の抜けた格好のまま目をつぶってひたすら咀嚼している姿がなんだかヤギみたいで、ちょっと可愛い。

「なんで自炊しないの? そういうの、結構好きそうなのに」
 
彼はあわてず口の中のものをゆっくり飲みこんでから答える。 

「自分で作るより、金出して美味いもん食ったほうが早いじゃん。それに朝は余裕もないし」

「作ってくれる女の人、いなかったの?」
 
ごく自然な流れで聞いたつもりだったのに、トーゴくんはじっとわたしを見た。

真っ黒な瞳は吸い込まれそうなほど色が深くて、つい視線を逸らしてしまう。

「お、おばさんが、心配してるよ。結婚するような相手はいないのかって」
 
上擦ってしまった声を誤魔化すように、わたしはお味噌汁のお椀に口をつけた。
 
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