裏腹王子は目覚めのキスを
トーゴくんは食事を進めながらひたすらわたしを見つめているようだった。
顔を上げると目が合ってしまい、わたしはそのたびに視線をずらす。
なんで、何も言わないの。
漂う沈黙の中、胸の鼓動だけが大きくなっていく。
すると彼は、空になったごはん茶碗に箸を置いた。
「羽華、おまえ……」
静かに呼ばれて、肩がこわばる。
トーゴくんの一直線の視線は、わたしの身体を貫いて心臓を直接揺さぶる。
何? と声に出したつもりなのに、開いた口からは音が出なかった。
「料理、うまいな」
しみじみと言われて、拍子抜けしてしまう。
わたしは左手に持っていたおひたしの小鉢に目を落とした。
「いや、料理っていうほどのものでもないし……」
簡単な朝食だし、と思って自分の前の皿を眺めていると、トーゴくんは立ち上がった。
「ごちそーさん」
「え」
「ふああ」と伸びをしながら洗面台のほうに向かって歩いていく。
リビングのドアを抜けるところで思い出したように振り返った。
笑うでも怒るでもない、まっさらな素の表情で、トーゴくんは言う。
「そうそう、俺、結婚する気ねえから」
「え……?」
「今度母親がなんか言ってきたら、そう言っといて」
廊下に消えていく背中を見つめて、わたしはぽかんとしてしまった。