裏腹王子は目覚めのキスを
朝食の後片付けをしてしまい、洗面所でシャツを洗濯する前に襟や袖の汚れの下処理をしようとしたところで、固形石鹸がないことに気が付いた。よくよく見たら洗濯洗剤も残り少ない。
「買ってこなきゃ」
スーパーが開くのは何時からだろうと思っていると、背後から呼びかけられる。
「羽華、これ」
振り返ると、ライトグレーのパンツにネイビーのジャケットを合わせたトーゴくんがわたしに一万円札を差し出していた。
「必要なもん買うだろ」
「え、いいよ。おばさんからお金もらってるし……」
断ろうとすると、彼は無理やりわたしにお札を押し付けた。福沢諭吉が三人もいる。
「もらったっつってもどうせ小遣い程度だろ。食材とか、この家に必要なもんの実費をお前が払う必要はないし」
「でも、お昼にわたしが食べる分のついでみたいなものだし……」
「その食事代もこっから払って」
「え」
トーゴくんは鏡の棚からワックスを取り出して、両手に馴染ませた。寝ぐせのついていた髪がまとめられ、自然な形にセットされていく。
「家事代行頼むこと考えたらお前の食費くらい全然安い。つか、本来なら報酬としてもっと支払うべきなんだけど」
「いいよ、いいです。泊めてもらってるんだし」
慌てて手を振ると、トーゴくんは鏡越しに横目でわたしを見た。