裏腹王子は目覚めのキスを

「そもそも、俺の家片付けるためにわざわざ出てきてるわけだろ? 右も左もわかんねえ都内まで。その労力を考えたら……」

「わたしね、都内に土地勘あるの。地元の大学出てから三年間、住んでたから」
 
髪をいじっていたトーゴくんの手が止まった。鏡の中で大きな目が見開かれる。

「は? お前、こっちに住んでたの?」

「うん。都内の企業に就職して働いてたんだけど、去年辞めて実家に帰ってたんだ」
 
だからこそ、おばさんもわたしをここへ派遣したのだ。
 
もともと方向感覚に自信のない彼女が忙しい合間を縫って来るよりも、都内のことをよく知っている上に時間がたっぷりあるわたしが様子を見に来た方が、何かとトーゴくんの助けになれるから。

「なんだよ、前に出てきたときに連絡くれれば良かったのに」

「うん、でも別にわざわざ連絡することもないかなって」

「水くせえな、言ってくれれば、案内とかしたのに」
 
ごめんね、と笑いながら、舌の上にじわりと苦みが広がっていった。
 

本当はわたしだって、トーゴくんに電話したかった。
 
でも、いざかけようとすると何を話せばいいか分からなかったし、そんなふうに迷っているうちに、仕事が忙しくなってそれどころじゃなくなったのだ。

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