裏腹王子は目覚めのキスを
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その日、トーゴくんが帰宅したのは夜の十一時を過ぎたころだった。
「おお、すげー量のシャツ」
物珍しそうに寄ってくる彼に「おかえりなさい」と声をかけ、わたしはラグの上に正座をしたまま手を動かし続けた。
「全部トーゴくんのだよ」
ローテーブルよりも高さのないアイロン台は間に合わせに買ったものらしく、使い勝手がよくない。それでもわたしはシャツのしわを伸ばすことに成功していた。
大量のシャツのなかにはアイロンいらずの形態安定加工のものもあるけれど、やっぱり熱でしっかりと伸ばしたほうが仕上がりがいいような気がした。
リビングのカーテンレールに吊るしたアイロン済みのシャツは、まるで巨大なテルテル坊主の行列みたいだ。
「はは、我ながらよくそんなに溜めこんだもんだ」
乾いた笑いを漏らして、トーゴくんはスーツ姿のままダイニングテーブルに着いた。
「あ、夕飯食べる?」
とっさに立ち上がろうとすると、彼は「いや」と言って持ち帰ってきたカバンからノートパソコンを取り出した。
「これから会議だから、テレビの音量下げてくれ」
「え、……はい」
BGM代わりにつけていたテレビの電源を落とす。
「ていうか、会議って……?」
声をかけようとした瞬間、
「Hello,Togo is online.」
彼が急に耳慣れない言葉をしゃべりだして、わたしは固まった。
「What have you been doing?」
窓を背にしてテーブルに着いているトーゴくんは、モニター画面に向かって話しかける。