裏腹王子は目覚めのキスを
「――but how much does it cost?」
英語だ。
耳をすませば、パソコンから相手の声が微かに聞こえてくる。ネット通信で海外の人とやりとりをしているのだ。
思わぬ事態に、わたしはアイロンの手を止めて彼に見入ってしまった。
母国語ではない言語で耳に入るトーゴくんの声は、なんだか知らない人の声みたいで、そわそわする。相手がジョークでも言ったのか、トーゴくんが外国のリズムで「はは」と笑った。
流暢に――少なくともわたしからすれば完璧なくらい英語を操る彼から目を離せなかった。
なにそれ、トーゴくんかっこよすぎ。
意外な一面というやつだ。
通話を終えると、彼はパソコンを閉じてふうと息をついた。
凄いね、と褒めるのはなんだか気恥ずかしくて「忙しそうだね」と声をかける。
「ああ、新規プロジェクトの立ち上げで、最近特に慌ただしいんだよ」
「トーゴくんの会社って、ブルースマートでしょ? 課長代理って聞いたけど……どこの部署なの」
尋ねながらおばさんから聞いた話を思い出す。
ブルースマートは、淡いブルーやグリーンなどの優しい色合いを基調としたインテリアや生活雑貨を販売する専門店だ。
スタイリッシュだけど攻めすぎずカジュアルだけど軽すぎない絶妙なデザインの生活雑貨が、幅広い年代の女性から支持されている。
全国に何十店舗とあるブルースマートの本社で、トーゴくんが携わっている仕事はなんなのか。ずっと気になっていた。