裏腹王子は目覚めのキスを

「羽華」
 
電話を終えた彼が寝室から出てきた。これだけ物が散乱しているのに、蹴とばしたりつまづいたりしないのが不思議だ。

「悪い、母さんに頼まれたんだって?」

「うん、トーゴくんの様子、見てきてくれって」
 
本当はおばさんが直々に息子のところへ来るつもりだったのだけれど、おじさんが急に入院することになってしまい、急遽、となりの家で暇を持て余していたわたしに白羽の矢が立ったのだ。
 
雑誌が積み重なった二人掛けダイニングテーブルの向き合った椅子をそれぞれ引き出すと、トーゴくんは窓側の席に細い腰を下ろした。

「つか、親父が入院したとか、聞いてなかったんだけど」

「ただの検査入院だっていうし、トーゴくん忙しそうだから、おばさん気を遣ったんだよ」

「なんか目が二重に見えるって?」

「うん。眼科と脳外科行ったけど詳しい原因はわからないから、総合病院で検査だって……」

「そっか。つか電話くれればいいのにな。兄貴が近くにいるから俺に頼るまでもないのかもしんねーけど」
 
トーゴくんには十歳年の離れたお兄さんがいて、実家近くに建てた家で奥さんと子ども四人と暮らしている。

孫を預けられることも多いらしく、お隣りの家からはしょっちゅう賑やかな声が聞こえていた。
 

わたしと同じことを考えていたのかもしれない。

トーゴくんはテーブルに頬杖をついたまま、ぽつりとつぶやいた。

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