裏腹王子は目覚めのキスを
「はは、お前はどうなんだよ。彼氏いないわけ? ま、いたら俺んとこに泊まってるはずないか」
意地悪そうに笑う彼から目を逸らして、わたしは店内を見やった。
チェーン居酒屋だけど、料金設定が少々高めのせいか客層は落ち着いた雰囲気の人が多い。しっとりと流れるBGMは、わたしの口調を大人びたものに変える。
「一年前に別れて、それ以来ひとり」
「へえ、一年もフリーなんだ。意外だな」
「意外? どうして?」
びっくりしてトーゴくんを見る。彼はそんなわたしに驚いたようにわずかに身を引いた。
「いや、どうしてって……」
戸惑ったようにわたしを見て、それからふいと顔を逸らす。
「ふつーに男が放っておかなそうだし」
「え……それって」
「羽華、次何飲む?」
急にメニューを渡されて、わたしは言葉を引っ込めた。残り少ない自分のグラスを見て急いでドリンクメニューの文字に視線を移す。
「ええと」
甘めのサワーを選ぶと、トーゴくんはすぐに店員を呼んだ。
「まーひとり者同士、気楽に飲もうじゃねーか」
空いたグラスを脇によけながら、王子様はどこか皮肉っぽく笑った。