裏腹王子は目覚めのキスを
 
仕事の疲れは見えるものの、トーゴくんの表情には憂いも屈託もない。

後悔なんてしたこともないといわんばかりの晴れた顔。昔から、やりたいことは迷わず実行する、自分の道を突き進む強さを持った人だった。
 
わたしの知らないトーゴくんの十二年間は、どれほど充実した日々だったんだろう。
 

ちびちびとグラスに口をつけていると、

「お前、結構飲めるほう?」
 
テーブルに頬杖をついて、王子様はすこしお行儀悪く尋ねてくる。

「どうだろう……とにかく顔に出やすくて、普段からあんまり飲まないから」

「親父さん酒豪じゃなかったっけ」

「よく覚えてるね。でもお母さんが全然飲めないから、わたしはどっちに似たかなぁ」

「じゃ、家じゃ弟が親父さんの相手してる感じか」
 
彼はお通しの小鉢をつつきながらのんびり天井を見上げた。まだ小学生だった頃の弟、桜太を思い出そうとしているのかもしれない。

「それにしても、約束をドタキャンしといて飲みに来てていいの?」

「ああ、いいんだって別に」
 
罪悪感の片鱗すら見せない物言いに、つい言葉がこぼれた。

「相変わらず女の敵だね」

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