絶対零度の鍵
右京に僕の言葉が届いているのかどうか、わからないけれど。


「人間は、無償で受けているものに、気づかない」


独り言のように、右京は呟く。


群青の瞳が、憂いを帯びているように見えて、僕は思わず彼女の肩を掴んだ。


それでも、右京はこちらを見ようとしない。


「だから、亡(ほろ)んじゃうのね。こっち側がどんなに助けようとしたって、当人たちがなんとも思っていないんだから」


何かを諦めたかのような、声音だった。


薄ら笑いさえ浮かべているものの、泣きそうな表情で、僕はなんだか不憫に思えて、つい、


「何を言っているのか、僕にはわからないけど…もしも僕で力になれることがあるのなら…」


うっかり心にも無いことを口にしてしまった。


しまった、と口を覆うが時既に遅し。


「本当に!?」


嬉しそうにこちらを見た右京は、僕の両手を取って、


「嬉しい!」


そう言って笑った。
< 145 / 690 >

この作品をシェア

pagetop