【壁ドン企画】 どっち?
「まず一つ目に、それが本当は嫌いなモノだって気づいていない場合。
二つ目、嫌いだからこそ、壊してしまいたい場合。
三つ目……怖いモノ見たさ。どこまで自分が耐えられるのかっていう、謎の戦い。己との意地の張り合い。敵は俺自身だぜ☆みたいな」
非常階段。
エレベーターを使う人が多いから、ここを使う社員は滅多にいない。
広い広い、ふたりきりの密室は静かで、落ち着いたふたりの吐息だけだとまるでいないも同然で。
だからこそ、こんな事を聞いてしまったのかもしれない。
ずっと思いながらも、聞けないでいた事を。
「四つ目。私を、私以外の誰かと重ねている」
慎重に発した言葉に、専務は静かに顔を背ける。
「どれですか?」と聞いた私に、専務はまた背中を向けたまま黙る。
そして、しばらくそうした後、静かに言った。
「そんな深い理由ねーよ。俺の敵は人ごみと花粉だ」
「私の敵は、オムライスの中のたまねぎです」
「それは俺も好きじゃない。
……これは、ただのはけ口だ」
会話の中に唐突に混ぜられた、さっきの答え。
告げられた答えの温度のなさに、ずん……と何かが心の底を突き破り奥へと沈んでいく。
痛みはない。