【壁ドン企画】 どっち?
確か、この名前のない、何も残らない関係が始まってしばらくはここも痛んでいたなぁと懐かしく思う。
初めての時から、専務は非道だった。それはもうひどかった。
大きな手で私の両手を押さえ付けて。私が助けを呼ばないようにか、ずっとキスされていた。
触れる唇は、行為が終わるまでずっと冷たかったのを、涙を流しながら感じたのを覚えてる。
少しも優しくなくて。期待する隙も見せなくて。
それを逆に優しいと思ってしまったのは、私のご都合解釈なのか。
専務の冷たい唇と、頬を落ちる熱い涙。
気持ちも温度も感じない行為は、私の中に抜けない棘を残した。
それは、すべてが彼に馴染んだ今も尚、私の中にあり続けている。
あの頃よりも、存在を大きく膨らまして。
私はあの時、嫌で泣いたわけじゃない。
泣かされたんだ。専務の中にある、ナニカに。
温度のない行為に、沸点以上の熱を感じて。
「じゃあ。早く、壊れたいです」
そこに、私である理由がひとつもないのなら。
いっそ壊れてしまいたいと思った。
恋に憧れる心も、未来への希望も何もかも。壊れ砕けて飛び散ってしまえばいい。
専務の温度のない指先を、吐息を、想いを決して冷たいなんて思わないように。