それは…好きだから。(樹生side)
 とっさに返事が出来なくて、
 一生懸命思い出そうとしている彼女の姿に笑みを浮かべる。

 どんなに頭を捻って考えたところで、答えなんて出るわけないのに。

「もしかして……忘れていたとか?」

「あのっ……ごめんなさい」

 素直。

「俺との約束を忘れて、他の誰かと出掛けるってことは?」

「それはないけど……ごめんなさい」

 すっかり、記憶から抜け落ちていましたって体で、
 何度も謝る彩佳に、吹き出しそうになったけど。

 嘘を取り繕えない正直な所も気に入っている。

 俺の嘘に簡単に騙される所も。

 ホントは約束なんてしていない。
 少し意地悪をしたくなっただけ。

 今日は彩佳と一緒に過ごしたかったし。


「俺は定時にあがるけど、彩佳は?」

「わたしも。今日中に仕上げる書類をすませれば終われるから」

 普通に話しかけた俺にほっとしたようで、
 いつものふんわりとした笑顔を見せてくれた。
 
 
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