ソフレ
「幸花がオレを子どもみたいに、抱きしめて眠ってくれるたび。
 暖かい気持ちが満たされるのと一緒に、男として幸花を抱きたい欲望にかられて震えてた。
 それでも幸花は絶対汚しちゃいけない存在で、オレは心と体が引き裂かれそうだったんだ」

 ばらばらの心と体が辛くて死にそうなまま、全てを隠して何度、幸花と眠ったろう?

 とっくに限界を越えた時。幸花がオレのことを『大好き』だって声を聞いて勇気が出た。

 幸花の全部をオレにくれと、苦しげに壁に手をつき、ささやく透の怖いくらい真剣な心が伝わってくる。

 黒目がちの瞳で射抜くように見つめられ、透なら、いいよ、とうなづけば。

「やったー!」

 透は大声で叫ぶと、わたしを壁ぎわから引きはがし、そのまま早速、保健室のベッドでシかねない勢いで、わたしを抱きあげた。

「待って! 今すぐは、ダメ!
 透が大人になったら……せめて18才になって学校を卒業したら、お婿にもらってあげるから」

「マジ? そんなに待てねぇぜ!」

 透は、年相応の表情で騒がしく叫び……それでも、わたしを降ろして、ぎゅっと抱きしめた。

「じゃ、その日が来るまで待ってるから。
 幸花は、オレ専用のソフレ、止めないで」

「うん」

 そう頷けば、今までとは変わらない、けれど未来のある関係が始まる。

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