【短編】5℃。
話題の壁ドン話をすると、同期は笑った。


「はは。面白い、理香」
「面白くないし」


オフィスのデスク、キーボードを立ててスペースを作り、お弁当を広げる。隣の同期は手作りの可愛いお弁当、私はコンビニ弁当。いつもお昼は留守番を兼ねて2人で食べる。隣り合わせる弁当を見比べて、女らしくないという意識はある。

すると、背後からクスクスという笑い声が聞こえた。

いたのはもう一人の同期、吉田。


「当たり前だろ、理香じゃな? “スタミナ焼肉弁当680円”だろ。そんな奴がドラマみたいな壁ドン期待すんなよ、アホ!」
「あのね」
「なんなら俺が壁ドンしてやるけど」
「間に合ってますう~。そもそも壁ドンって痛いんだから! 甘くもなんともないの」
「強がるなよ。素直に壁ドンされたいって言やあいいのに可愛くねえ」
「お互いさまですっ! ふんっ」


ああ言えばこう言う、口減らずの吉田。吉田はコンビニ袋をぶら下げて、2つ向こうの席に座った。ドカリ、とふんぞり返る音がする。


「仲いいね、理香と吉田さん」
「まあね」


と、嫌みに返事をすると、向こうから、誰がこのアホ!、と呟くような声が聞こえた。





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