【短編】5℃。
*─*─*
夕刻。定時。
「理香、お先に」
「うん。お疲れさま。頑張って」
「ありがと……じゃあね」
おめかしした同期を見送る。私は残業を買って出た。こんな状態で自宅に帰っても気が滅入るだけだ。同期は吉田をロビーに呼び出して告白すると言っていた。今頃、2人は見つめ合って手を取り合って、「好きです」「好きだ」と愛を確かめ合ってるんだろうか。
「んなわけ、ないか。ははは……」
同期に先を越された。先に私が自分の気持ちに気付いていたら、今夜は私が吉田のそばにいれただろうか。いや、そんなことはない。私が告白しても吉田が首を縦に振る訳がない。どのみち、吉田は同期を選んだに違いない。
「はあ……」
私は座ったままデスクに伏せた。キーボードのボコボコが額に当たって痛い。今日ほど女子力のない自分を情けなく思ったことはなかった。
ガタン。ドアの開く音がした。私は起きる気力もなく、そのまま伏せっていた。
「……アホ」
アホ?