二十年後のクリスマスイブ
「桐人なかなか来ないね…」

 律子が《南風》に来てから一時間が過ぎた時、新井がお代わりの珈琲を持って来て、手付かずの冷めたカップを下げながら話し掛けた。

「ありがとうマスター…気を遣わせて本当にごめんなさい。」

 クリスマスイブの人が殆ど歩かなくなった通りを、ガラス越しにボーっと見つめていた律子が新井に気付いて微笑んだ。

「桐人は必ず来るよ!好きなだけ待てばいいから、今日は宵越し営業するからね。多分、他に客は来ないだろうけど…」

「優しいのね。マスターは…」

「二人に何とか元の鞘に収まって欲しいだけさ…」

「好かったら、桐人が来るまで話し相手になって貰えないですか?独りでは、良くない事ばかり考えてしまうから…」

「そうか…じゃ、桐人との馴れ初めでも伺うとするかな」

 新井が、いつも桐人が座る席に腰を下ろした。 この場所は二人のいつもの指定席で、新井はいつもカウンター越しに幸せそうな二人を微笑ましく眺めていた。

「ありがとう…マスター」

 律子は、新井が席に腰を下ろしたと同時に、桐人と居る時に見せる魅力的な表情に変え桐人との事を語り始めた。

「桐人は、私を救ってくれたの………」
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