二十年後のクリスマスイブ

　律子と新井の間に少しの沈黙が訪れた後に、新井がポツリと言葉を問い掛けた。

「桐人は律ちゃんに男が居る事は知っていたのかい？」

「桐人には不思議と全てを話せたの…その上で私を愛してくれたわ。一緒にいるうちに私は過去を忘れられていた…男が目の前に現れるまで。でも、もう私の中には桐人しかいないし、男と車の中で別れ話の中で殴られながらも毅然と出来た…この痛みは、馬鹿な私への報いと思って耐えられた。そして、ボロボロになって戻った私を黙って優しく抱きしめてくれた時に、これで桐人と永遠に一緒に居れると思ったわ…」

「男と女の縁は不思議なものだな…私には君たちの間に、そんな重い事があったなど微塵も感じなかった…」

　新井は、喋り終わるとふぅっと溜め息を吐いた。

「でも……桐人と居る代償に男の残した借金の肩代わりは普通に働いて返せる金額じゃなくて、身体を売る仕事は続けざるを得なかった…桐人は、知りつつも私に気を遣わせないように普通に接してくれた。時間さえ過ぎればと云う日々を送っていても、色々な出来事が私の知らないうちに桐人を動かしていたのね……そして、桐人の心を鏡で見せられる事になっちゃった。それが…」