二十年後のクリスマスイブ
 新井には桐人と似て非なるものを、この客に感じた。『縁というのは面白いものだ…』

「そうですか、海外に…暫くは戻って来られないのですか?」

「本当は、もう日本には戻らないつもりでした…しかし、この指輪を拝見してマスターの話を伺ってたら、一度は帰りたくなってきました。運命って在るんでしょうかね…何か指輪に喚ばれてる気がするのですよ………」

「是非とも、お待ちしてます…」




 過去を振り返っている内に、時は時代に関係無く進んでいた。そして、遂に二十年前の出来事が確かに在った事を証明する一人が現れた…

 それを見て新井は、洗剤にまみれた手を拭く事を忘れ、そのまま老眼の両の瞼を擦った後、一人の青年の姿をじっと見つめ頭の中が混沌した。

 普段と変わらないモーニングサービスの慌ただしい時間が落ち着き、大量の洗い物を片付けている最中のクリスマスイブの午前十時を回った辺りだった。

 ゛カランカラン゛と柔らかく鐘の音を鳴らし静かに店の中に入って来たのは紛れも無い桐人であった…しかし?それは昔の若かりし頃そのままである

「末椅子拓真と云うものですが、お尋ねしても宜しいでしょうか?…」

「末椅子拓真?…」
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